【読書メモ】「0ベース思考」を読んで「インセンティブ」についてまとめた
とつぜんですが今週は読書メモ強化週間!今のところ5冊分はまとめてあるので、一日一個で小出しにしていきます。姑息。
本日の読書メモは「0ベース思考」。著者はあの「ヤバい経済学」のS.レヴィットさんとS.ダブナーさん。人間行動に関するおもしろい研究が分かりやすく紹介されていて、かなり楽しく読めました。
- 作者: スティーヴン・レヴィット,スティーヴン・ダブナー
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2015/02/13
- メディア: Kindle版
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インセンティブを正しく理解しよう
まず、〈現代生活はインセンティブのうえに成り立っている〉。 インセンティブを正しく理解すること、読み解くことが、問題を理解して解決法を考えるためのカギになる。(Kindle, location 209)
そのための研究が、経済学の分野でさかんに行われてますね。行動経済学者ダン・アリエリーさんの著作「予想どおりに不合理」もオススメです。
人は「操られてる感」を覚えると反発したくなるという、あたりまえのことも指摘しておきたい。インセンティブ制度は、影響力や利益を得たいという立案者の魂胆が見え見えのことも多いから、反発する人が出てきてもおかしくない。(Kindle, location 2063)
嘘をついている人やずるをしている人は、正直な人とはちがうインセンティブに反応することが多い。このことを利用して、悪者を探し出せないだろうか?(Kindle, location 2183)
フリークみたいに考えるとは、大きくではなく、小さく考えることだ。 なぜか? まず言えるのは、大きな問題というのは自分よりずっと利口な人たちが考え抜いてきた問題だってことだ。それがまだ問題のまま残っているということから、まるごと噛み砕くのはとてつもなく難しいとわかる。そういう問題は扱いにくく、絶望的に複雑で、凝り固まった矛盾するインセンティブが山ほど隠れている。(Kindle, location 1382)
複雑なことは小さく分けて考える。そうしないと思考停止しちゃう。
何を測定すべきか、どうやって測定すべきかがわかれば、世界はそう複雑でなくなる(Kindle, location 210)
フリークが信条とする教えを一つあげるなら、「人はインセンティブに反応する」だ。これは単純明快、至極当然に思えるが、このことをしょっちゅう忘れて自滅している人が多いのにはびっくりする。ある特定の状況に関わる全当事者のインセンティブを理解することが、問題解決の基本だ。(Kindle, location 1647)
事実ならいくらでも収集できるし、実際役に立つかもしれないが、因果関係を確実に計測するには、事実の奥に隠されたものを読みとらなくてはならない。ときには進んで外へ飛び出し、実験をしてフィードバックを得ることも必要だ。(Kindle, location 600)
人のインセンティブを想像することも大切だけど、自分自身のインセンティブを理解することも必要。
知らないはずの答えを知っているかのようにふるまうのをやめなければ、調べたいという強い思いも湧いてこない。知ったかぶりをしたいというインセンティブはとても強いから、それに打ち勝つには勇気をふりしぼる必要がある。(Kindle, location 781)
誰かを説得したいなら
インセンティブへの理解は、誰かを説得する場面でも有用です。
インセンティブの設計と分析に長年とりくんできたぼくたちが学んだ教訓は、自分の欲しいものを手に入れたいなら、相手を礼儀正しく扱うのがいちばん、ってことだ。 礼節をもっていれば、ほぼどんなやりとりでも協調的枠組みに引き入れられる。礼節がいちばん威力を発揮するのは、いちばん思いがけないとき、たとえばものごとがまずい方向に行ってしまったときなどだ。(Kindle, location 2068)
1.相手が関心があると言っていることを鵜呑みにせず、本当に関心をもっていることをつきとめよう。 2.相手にとっては価値があるけれど、自分には安く提供できるような面で、インセンティブを提供しよう。 3.相手の反応に注意を払おう。びっくりしたり、がっかりしたような反応が返ってきたら、それを参考にして別のことを試してみよう。 4.相手との関係を、敵対的枠組みから協調的枠組みにシフトさせるようなインセンティブをできるかぎり考えよう。 5.何かが「正しい」から相手がそれをしてくれるだなんて、ゆめゆめ思っちゃいけない。 6.どんなことをしてでもシステムを悪用しようとする人が、必ず現れる。考えもしなかった方法で出し抜かれることもある。そんなときはカッとして相手の強欲を呪ったりせず、創意工夫に拍手を送ろう。(Kindle, location 2075)
相手の考えは事実や論理よりも、イデオロギーや群集心理に根ざしている場合が多いことを頭に叩き込んでおこう。これを面と向かって言っても、相手に否定されるだけだ。何しろ相手は、自分が気づいてもいないバイアスをもとに行動しているんだから。(Kindle, location 2592)
誰かを説得したいときに、何だって相手の主張のよいところを認める必要があるのか? 一つには、反論には必ずと言っていいほど利用価値があるからだ。そこから何かしら学んで、自分の主張を強めるのに使うことができる。自分の主張に入れ込んでいる人にはそんなことは信じがたいかもしれない。でも忘れちゃいけない、自分が気づいていないということに気づかないことはしょっちゅうあるのだ。(Kindle, location 2662)
失敗は悪者じゃない
本書には「失敗を怖れるな」とも書かれています。
マイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長も、このことを知っていた。「医学でも科学でも、何かの道を歩いていってそれが袋小路だとわかるだけで、ものすごい貢献だ。その道を二度と行かずにすむじゃないか」と彼は言う。「マスコミはこれを失敗と呼ぶ。だから政府では誰もイノベーションを起こそうとしたり、リスクをとろうとしなくなるのだ」(Kindle, location 2886)
リスクをとるのも仕事のうちで、一度うまく失敗すれば、次にもう一度失敗するチャンスが得られるってことを、全員に叩き込むことだ。失敗に数千万ドルつぎ込む前に、数万ドルで終わりにできれば、ずっと多くのことをするチャンスができる」。だからこそ失敗は「勝利として認められるべきだ」(Kindle, location 2912)
失敗が悪者扱いされると、誰もが必死に失敗を避けようとする——たとえ失敗が、つかのまの挫折でしかなくてもだ。(Kindle, location 2937)
洗練(ソフィスティケーション)を極めるのがそれほど価値のある目標かどうかさえ疑わしい。この言葉はギリシャ語で「都市から都市へと渡り歩いて、哲学や修辞学を教えて報酬を得ていた、詭弁家として悪名高い者たち」を意味する「ソフィスト」から来ている。(Kindle, location 1363)
失敗しない、洗練されてるっていうのはいいこと? そうじゃないよね
【勉強会】Lean UX Circle Meetup with Pivotal Labs_150610
全編英語だと知らずに申し込んだので、つらみを味わいました。いちおう、がんばったメモです。正確性に自信はありません、どうかあしからず!!!!
概要
- Lean UX Circle Meetup with Pivotal Labs - サンフランシスコと東京をLean UXでつなぐ
- 「Pivotal Labs社の紹介やユニークなプロジェクト・マネジメントについて、そして Jason氏とJanice氏がリードするInnovation Practiceのミッションや彼らの最新動向を伺う」
- 日時:2015年6月10日 19:30〜21:00
- 場所:メンバーズ東京本社(勝どき)
Building better Products at Pivotal Labs
- Jason Fraser @jfraser
- Pivotal Labsとは
- プロダクト開発やコンサル?などを行うアメリカの会社。Pivotal Trackerをつくってるところ
- 9.1に東京オフィスをOPEN!採用も考えてるので、興味があったらぜひ声かけてね
- Pivotal Labsの特徴
Innovation at Pivotal
- 開発時にクライアントと行うワークショップで、以下のような質問をする
- Who is the customer?
- What is problem?
- Worth solving problem?
- Is our solution the right solution?
- Is there a market?
- Does market scalability matter?
- Is the business model well thought out?
- 上記の質問を通じて、プロダクト開発における不確定要素を明らかにしていく
- プロジェクトの成功ではなく、プロダクトの成功を目指す
Why Agile?
- Lean UXはAgileを応用した考え方
- 失敗は小さく早くしよう
- アジャイルソフトウェア開発宣言
- プロセスやツールよりも個人と対話を、価値とする
- 包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを、価値とする
- 契約交渉よりも顧客との協調を、価値とする
- 計画に従うことよりも変化への対応を、価値とする
Extreme Programming (XP)
- wiki
- “How little can we do and still build great software?”
- XPという開発手法
- 躓いてもすぐに取り返す
- ビジネスの意志決定のための「オプション」を増やす
- XPでもっとも大切にされている価値は、コミュニケーション、簡潔さ、フィードバック、そして勇気
- おすすめの本:Extreme Programming Explained
- Why Simplicity?
- アメリカ政府のヘルスケア関連のプロセスはすごい複雑
- 複雑なものはうまく働かない
- How do you approach a typical project?
Extreme Programming at Pivotal Labs
- チームにフォーカス
- Communicative overhead:人が増えると、コミュニケーションコストは増大していく
- Team Size
- チームは小さく!
- ベゾス「チームの人数はピザ二枚分がいい」
- Pair Programming
- ペアで働くことの利点
- より早くよりエレガントなソリューションが生まれる
- エラーが減る
- チームの繋がりが強くなる
- ドキュメントがいらない
- Pivotal Labsではデザインもペアでやってる
- ペアだとよりコストがかかるように思えるかもしれないが、やってみると通常より3割(3倍?)開発が早くなった
- ペアで働くことの利点
- 率直さを大切に
- No Rockstars:egoは必要ナシ!
- 意見を出しやすくする工夫:ホワイトボードに3つの顔(にっこり、真顔、おこ)をかき、そこにチームメンバーが意見を書いていく
- 規範(Predictive)ではなく予測(Prescriptive)
- スクラムでいこう
- [Pivotal Trackerのキャプチャ]
- Velocityはその週で何がどれだけできるか、を予測するための数字。罰則のためのものではない
- テスト駆動開発
- テストが通ってからデプロイ
- 前述のとおり、Pivotal Labsでは基本ペアで開発してるので、クオリティチェックは同時に行われてると考える。なのでテストが通っていればOK
- Interactive
- No sprints
- スコープではなく、時間にコミットする
- 顧客のバリューにフォーカスする
- 継続的にデプロイ
Product Management for XP
- 伝統的なプロダクトマネジメント:
- ビジネス、デザイン、マーケティングなどをプロダクトオーナーが握っていて、そこから開発指令が発せられる
- Pibotal Labsのプロダクトマネジメント:
- ビジネス/プロジェクトマネージャー(PM)、開発&エンジニアリング、UX&デザインの3チームがいて、それぞれが良いバランスで開発に責任を持つ
- 最終意思決定者はPM。ただし、PMがよくない決定をしてたらそれを簡単に変更できる
- Pivotal LabsのPMがやってること
- What does it all mean?
- We can build rock-solid software quickly and reliably with very little interpersonal drama.
質疑応答
- (会場)クライアントとはどういう契約を交わしているの?
- (JF)プロダクトを単価で買うというよりは、5〜6ヶ月とか開発期間を買うという感じ。中身の保証をしていないので、プロダクトそのものにとらわれない開発ができる
- (会場)クライアントのメンバーのコミット度は?
- (JF)100%!複数掛け持ちはNO!
- (会場)クライアントからはどういった職種の人に参加してもらってる?
- (JF)重要なのは職種ではなく性格。こういう性格の人をお願いします、というふうにお願いしている。Pivotal Labsは、ディベロッパーの教育の役割も担っているのでそういう風にしてる
- (会場)Jasonさんが事業会社のPMとして新規開発をはじめるとしたら、どうやって予算を取りに行く?
- (JF)リスクに直面する前に、クライアントにリスクを自覚させる問いを投げかける。ポイントは、Build − Measure − Learnのサイクルを小さく早く回していくこと。無駄に思えるかもしれないが、こっちのほうが通常の(ウォーターフォール的な)プロセスよりもリスクが少ないということを伝える
- (坂田)学ぶための環境づくりが大事。いかにClosedな状況でBuild − Measure − Learnサイクルが回せる環境を社内に作れるか、がキモになりそう
- (会場)Pivotal Labsのプロジェクトではいつまで作らなければならないというデッドラインの概念はほとんど無いと思うが、それでもクライアントがしびれを切らすことはない?
- (JF)うちではプロダクトをリリースしてはいどうぞ、というやり方ではなく、ずっと一緒に改善していくものだという認識で進めている。そういう意味では「完成」や「納品」という概念無い。なので、もしそういうことになったとしても、Leanなプロセスでやっている以上プロダクトは早い段階からある程度の形にはなっているし、プロジェクトがどの段階で終了になるか、というだけ
- (会場)クライアントはリソースが無いからこそ外部であるPivotal Labsに依頼してきているのだと思うが、Pivotal Labsのバリュープロポジションは何なのか?
- (JF)良いプロダクトをつくることはもちろん、クライアントの上に立って、クライアントをうえに導いていく存在であるということ。クライアントの中にいる社員のことはもちろん、社会全体も良くする存在である
おまけ:タスクの優先度付けマトリックス
- 懇親会でお話されていた内容です!
- クライアントにやってもらったテストやヒアリングの結果出てきたタスクに、どう優先度をつけていくか
- 横軸がタスクの重さ(←難しい →カンタン)、縦軸がカスタマーバリュー(↑高い ↓低い)のマトリックスを用意する
- バグや要望(新規機能など)をタスクとしてふせんに書き出す
- それらのふせんをマトリックス上に貼っていく。正しいかどうかはとりあえず置いといて、どんどん貼っていく
- 各タスクの優先度を判断する
- 重要なのは「今考えるべきこと」にフォーカスすることなので、下半分(=カスタマーバリューが低いもの)は全て落とす
- 左上部分(=バリューが高く比較的容易なもの)はもちろんやっちゃう
- 右上部分(=バリューは高いが困難なもの)の優先度は、Minimum Viable Productに必要かどうかで決めていく
- もし右上部分の優先度付けでうじうじ悩んじゃうようなら、ラビッドプロトタイピングでサクッとつくっちゃって、再度クライアントにテストしてもらって判断する。悩む時間がもったいない!
- 優先度を落とした機能が後々必要になったとしら、それはその時また考える。とにかく、今やるべきことにフォーカス・フォーカス・フォーカス!
【勉強会】WXD TALK SESSION 生命のデザイン、バイオニック・デザイン
私は子供のころ母から、きみの父親は火星人なんだよ、と聞かされながら育ったのですが、どうやらそれは科学的知見に基づく事実だったのかもしれない……
WIREDが主催するトークイベ(ヴェ)ントに行ってきました。久しぶりにガッツリ生物学の話が聞けて、めちゃくちゃよかった。ということでメモ!ながい!
開催概要
- WXD TALK SESSION 生命のデザイン、バイオニック・デザイン:細胞〜クマムシ〜宇宙の生き物のかたち
- 日時 :2015年5月31日(日) 13:00〜15:00
- 場所 :HUB TOKYO(目黒)
- 内容 :生物の構造に迫り、そのあり方をヒントに、新しい何かを生み出す。そうした「バイオニック・デザイン」の可能性を探るトークセッション。スピーカーは実は全員同じ研究室の出身
トークセッション
いまやっていること(研究概要)や自身の興味について
荒川和晴(慶応義塾大学 先端生命科学研究所)
【クマムシを研究対象に、生命とは何かを数学的に解析しようとしている研究者】
- 僕は「生命を創りたい」と考えている。なので最初に細胞のシュミレーションで有名なラボへ入った。そこで、ゲノムの情報をもとに細胞のダイナミクスをコンピュータ上で再構成したりということをやっていた
- そのために生命と非生命を比較し、数学的・定量的にその差分をとる(=生きている状態と死んでいる状態で何が違うのか・何が失われているのかを調べる)ことで、生と死を理解したいと思っている
- でも僕は35億年間死んでいない。つまり、生命は、地球上に初め誕生してから一度も死んでいない
- 生命を理解するために生きている状態(第一の生命状態)と生きていない状態(第二の生命状態)を理解しようと思ったが、どうやらそうカンタンにはできなそうだと気付き、「第三の生命状態」というものがないかを探した結果、「クマムシ」に行き着いた
いろいろなクマムシ
- クマムシは、生きてる状況と生きてない状況を行き来している生物。この二つの状態の差分をみれば、細胞の「死」や「生命とは何か」について知ることができると考えている
- 僕は、生命活動は相転移現象であると考えていて、この境界線を数式化できれば生命を理解できたと言えると思う
- あと、僕は「ゲノムをちゃんと理解したい」。今言われているゲノム解読完了というのは、配列を読み終わっただけで、ようは写経と同じレベル
- タンパク質の構造を決定するゲノムの配列をもとに、そこからタンパク質を再構成して利用できるようにしたい
- そこで、クモのゲノムを1000サンプル分読み、進化系統・種類・物性からクモの糸のデザイン原理を探るという試みもやっている。そこからさらに、望みの物性を持つ人工素材の設計を可能にしたい。スパイバーというベンチャーにも関わっている
- いまある生命は、たくさん生まれた選択肢の中から生き残ってきた「デザイン」だと思う
小川隆(Molcure, inc. CEO)
【バイオロボティクス企業Molcure CEO。特定のがん細胞にのみ効果を発揮する抗体をつくり出す術を磨き続けている。じつはIGNITIONに記事があります】
- 僕の研究のモチベーションは「死にたくない」という気持ち。自分が「生きている」状態を永遠に続けるためにはどうしたらいいかをずっと考えている
- はじめに、生きているものと生きていないものは同じパーツ(原子・分子)でできているのにそれぞれ何が違うのかを知りたいと思い、分子の研究を始めた。そうして基礎生物学について学ぶなか、父が癌で亡くなり、もっと直接的に「死にたくない」をなんとかするための研究をしたいと考え、Molcureを立ち上げた
- 従来の抗癌剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞を含むすべての細胞を攻撃するため、大きな副作用が生じる。でも、我々の体のなかにある免疫システムで使われる「抗体」は、きちんと選択的に攻撃する/しないを決定している。つまり、抗体は従来の抗癌剤の問題点を解決することができると考えた
- こうした分子(抗体)を狙って設計し生産できるようにしたいのだが、やはり難しい。そこでその実現のために我々がやっているのは、分子をランダムに何兆種類とつくって、それぞれががん細胞に反応するかをとにかく試すこと。どういったかたちのものがガンにぴったり合うか、次世代シーケンサーと機械学習技術を用いて、探しだしている
- 僕には、生命はロボットに見えている。つまり、複雑な生命は、単純で小さなパーツを巧妙に組み合わせてでき上がったものだと考えている。僕は、生命と非生命の境界を考えようとするのは人間のエゴにすぎず、生命と非生命は境界のないもっとgradualなものだと考えている
藤島皓介(NASA研究員)
【研究対象は、地球外生命体の探査、生命の起源、火星探査・移住計画、サンプルリターン計画など】
- 僕が生物学を学ぶ理由のひとつは、「第一の生命(=地球型生命)を理解したい」という思い。そこから発展して、生命のルールを改変した第二の生命(人工細胞/微生物の構築)は造れるのか、生命のルールに基づいて第二の生命(地球外生命)を探すことはできるのか(生命のルールやシステムを拡張することができるのか)、ということに興味がある
- NASAが提唱した宇宙生物学は、我々はどこから来たのか(起源と進化)?我々は宇宙で唯一の生命か(分布)?我々はどこへ向かうのか(未来)?、という問いに応える学問。そのなかでも僕の一番の興味は、生命の起源にある
これまでの生物学で解明された地球型生命のセントラルドグマ(分子生物学の基本原則)は、生命はDNA(=遺伝情報の記憶媒体)・RNA(=遺伝情報のキャリア)・タンパク質(=触媒)の3つからできているということであり、この原則は生命が誕生した38億年前から変化していない。このことは教科書に当たり前の事実として書かれているが、なぜこうなのか、というところにはまだ答えられていない
生命の起源についての研究
- 地球型生命が利用するアミノ酸(=タンパク質のもと)や糖(=DNA・RNAのもと)などの分子にはキラリティ*1という性質があって、生命が利用するアミノ酸は全てL型アミノ酸、DNAとRNAはD型リボースという糖からできている。生命は必ずDかLどちらか一方しか使わないのだが、では、D型アミノ酸しかない状況で生命はできないのか?ということに興味がある
- また、人間を構成する20種類のアミノ酸のうち10種類は宇宙空間で生成可能だが、残りはない。つまり、代謝系の進化とともに利用するアミノ酸の種類が増えていったという仮説が立てられる。そこで僕は、10種類のアミノ酸しか使わないタンパク質(触媒)をつくって、そこから残りの10種類を作ることができるのかを研究している
- 地球外生命の存在については、現在僕が考えている生命に必須の物質「紐状の高分子(=記録媒体となりうるもの)」を見つけることができれば、地球外生命発見の可能性も出てくると考えている
生命システムの改変:合成生物学的研究
- こうした研究を通じて、生命という枠組みを広げることができるのではと期待している
(会場質問)地球型生命のセントラルドグマは炭素中心だが、炭素以外(ケイ素など)のものはあるのか。また、そもそも生命はなぜ誕生したのか、ということへの根源的な答えに関する知見などはあるか
- (藤島)炭素に比べて、単体のケイ素は他の元素と結合して結晶化しやすいという特徴がある。物質は水のような液体に溶けてイオン化することで化学反応が起こりやすくなるのだが、一度何かと反応してしまったケイ素は結晶化して水に溶けにくくなり、反応しにくくなる。なので仮にケイ素ベースの生物がいるとすれば、周囲の環境が「ケイ素が溶けやすくかつ炭素がほとんどない」ということが条件になる。そして宇宙的に見ると炭素のほうがケイ素より多いので、その環境はあまりない
- (藤島)生命は、持っている情報に少しずつばらつきをもたせることができ、そうしてあらゆる環境で生き残って繁栄してきた。僕はそうしたものこそが生命であると思っているが、「生命はなぜ誕生したのか」という問への根源的な答えは、まだもっていない
- (荒川)生命はそもそも生き残るためのシステムなので、一回できちゃったら残る。そこに意図があるというよりは、できたから残っているのだと思う
- (荒川)いまいる生命は地球外に生命を飛ばそうとする知性(?)を持っているが、それも生命が生き残ろうとする自然な流れなのかもしれない。個人的には、侵略反対
- (小川)僕は、宇宙に飛び出ていくというのはある意味しかたなくて、侵略しちゃっていいんじゃないかなと思う笑
- (藤島)実は火星の生命探査と有人探査は、真逆のことをやろうとしている。生命探査では地球上生命によるコンタミ(試料汚染)を防ぎたいんだけど、有人探査(テラフォーミングとか)も必要だし、、という。そういう意味で、宇宙生物学はジレンマを抱えていると言える
- (藤島)宇宙史的にみれば、地球より先に火星のほうが生命ができやすい環境になっていて、地球より火星のほうが小さく冷えるのが早かったので、海(大量の液体の水)もあった。なので、いま地球にいる生命が実は火星から飛来してきた生命であるという説が現実味をもって再議論されていて、SFだトンデモだと言われてきたことがもうSFとはいえなくなってきている
(会場質問)新しい生命をつくろうとした時に、その生命の目的までデザインすることはできるのか
- (荒川)地球上で生命は何回生まれたか、という話があって、一回だけだという説もあれば、何回も生まれてそのなかで今の生命が生き残ったという説、ゼロ回(地球上では生まれず火星で生まれた生命が飛来した)という説もある。
- (荒川)僕は、結局は新しくつくった生命も、自分たちの生息環境を広げようとするようになると思っている。なので、新しい生命には異なる物理環境を用意してあげなきゃいけないと思っていて、我々の環境を侵略しない、それこそデジタル空間のなかとかで生命を作れないかと考えている
- (小川)元来、生命は目的を持っていなかったと思う。だが現在いる生命は、個体を増やして領地を広げようという目的をもつようになって、リソースを奪い合うようになっている。もし、新しい生命にうまくリソースを供給できるような状況をつくることができれば、いまいる生命と衝突せず共存できるようになるのかもしれない。ただ残念ながらいまの地球上の生命は、うまれた時点で「増やせよ侵略せよ」という目的がビルトインされているので、新しい生命をつくっても共存はむずかしいと思う
- (藤島)いまいる生命の必要とするリソースを、欲しない生命をつくることはできるかもしれない。たとえば、我々とは違うD型アミノ酸とL型リボースで構成されている「鏡合わせの生命」とか。ただ、D型アミノ酸をL型に変化させて取り込んでしまうような生命もすでにいるので、新型生命をつくったら我々が大事に育ててあげないと発展させるのはやっぱり難しいかもしれない
- (荒川)それって、土地(=有限なリソース)っていう概念を無視してるよね
- (藤島)たしかに、今の地球上ではむずかしいですね。なのでこの話は、あくまで試験管内での話です
最後に言い残したこと
- (荒川)僕は本来的には基礎生物学的なことにしか興味が無いんだけど、世界を救うこともやらなければならないと思っているので、クモの糸とかミドリムシとかも作っています。もし興味があればお声掛け下さい。
- (小川)PDB(Protein Data Bank)というものをぜひググって見てみてください。生命がロボットなんだということがわかると思います笑。僕ははやくロボットになりたいし、人類を滅ぼさないよう新しいロボットを作っていきたいと思います
- (藤島)僕もはやくロボットになりたいです笑。ロボットになって壮大な生命誕生実験とかをやってみたいけど、今できるのは隣の星に生命を探しに行くくらいですね。僕は、僕ら人類が知ってる生物が1種類しかないというのが問題だと思っているので、はやく新しい生命を見つけて、比較できるようにしたいです。
*1:物質とその鏡像がをぴったり重ね合わせることができない性質。左手と右手みたいなもの