Curiosity

骨とワニが好きなデザイナーです

【勉強会】WXD TALK SESSION 生命のデザイン、バイオニック・デザイン

私は子供のころ母から、きみの父親は火星人なんだよ、と聞かされながら育ったのですが、どうやらそれは科学的知見に基づく事実だったのかもしれない……

WIREDが主催するトークイベ(ヴェ)ントに行ってきました。久しぶりにガッツリ生物学の話が聞けて、めちゃくちゃよかった。ということでメモ!ながい!

開催概要

トークセッション

いまやっていること(研究概要)や自身の興味について

荒川和晴(慶応義塾大学 先端生命科学研究所)

クマムシを研究対象に、生命とは何かを数学的に解析しようとしている研究者】

  • 僕は「生命を創りたい」と考えている。なので最初に細胞のシュミレーションで有名なラボへ入った。そこで、ゲノムの情報をもとに細胞のダイナミクスをコンピュータ上で再構成したりということをやっていた
  • そのために生命と非生命を比較し、数学的・定量的にその差分をとる(=生きている状態と死んでいる状態で何が違うのか・何が失われているのかを調べる)ことで、生と死を理解したいと思っている
  • でも僕は35億年間死んでいない。つまり、生命は、地球上に初め誕生してから一度も死んでいない
  • 生命を理解するために生きている状態(第一の生命状態)と生きていない状態(第二の生命状態)を理解しようと思ったが、どうやらそうカンタンにはできなそうだと気付き、「第三の生命状態」というものがないかを探した結果、「クマムシ」に行き着いた

f:id:takana8:20150531203910p:plain いろいろなクマムシ

  • クマムシは、生きてる状況と生きてない状況を行き来している生物。この二つの状態の差分をみれば、細胞の「死」や「生命とは何か」について知ることができると考えている
  • 僕は、生命活動は相転移現象であると考えていて、この境界線を数式化できれば生命を理解できたと言えると思う
  • あと、僕は「ゲノムをちゃんと理解したい」。今言われているゲノム解読完了というのは、配列を読み終わっただけで、ようは写経と同じレベル
  • タンパク質の構造を決定するゲノムの配列をもとに、そこからタンパク質を再構成して利用できるようにしたい
  • そこで、クモのゲノムを1000サンプル分読み、進化系統・種類・物性からクモの糸のデザイン原理を探るという試みもやっている。そこからさらに、望みの物性を持つ人工素材の設計を可能にしたい。スパイバーというベンチャーにも関わっている
  • いまある生命は、たくさん生まれた選択肢の中から生き残ってきた「デザイン」だと思う

小川隆(Molcure, inc. CEO)

バイオロボティクス企業Molcure CEO。特定のがん細胞にのみ効果を発揮する抗体をつくり出す術を磨き続けている。じつはIGNITIONに記事があります】

  • 僕の研究のモチベーションは「死にたくない」という気持ち。自分が「生きている」状態を永遠に続けるためにはどうしたらいいかをずっと考えている
  • はじめに、生きているものと生きていないものは同じパーツ(原子・分子)でできているのにそれぞれ何が違うのかを知りたいと思い、分子の研究を始めた。そうして基礎生物学について学ぶなか、父が癌で亡くなり、もっと直接的に「死にたくない」をなんとかするための研究をしたいと考え、Molcureを立ち上げた
  • 従来の抗癌剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞を含むすべての細胞を攻撃するため、大きな副作用が生じる。でも、我々の体のなかにある免疫システムで使われる「抗体」は、きちんと選択的に攻撃する/しないを決定している。つまり、抗体は従来の抗癌剤の問題点を解決することができると考えた
  • こうした分子(抗体)を狙って設計し生産できるようにしたいのだが、やはり難しい。そこでその実現のために我々がやっているのは、分子をランダムに何兆種類とつくって、それぞれががん細胞に反応するかをとにかく試すこと。どういったかたちのものがガンにぴったり合うか、次世代シーケンサー機械学習技術を用いて、探しだしている
  • 僕には、生命はロボットに見えている。つまり、複雑な生命は、単純で小さなパーツを巧妙に組み合わせてでき上がったものだと考えている。僕は、生命と非生命の境界を考えようとするのは人間のエゴにすぎず、生命と非生命は境界のないもっとgradualなものだと考えている

藤島皓介(NASA研究員)

【研究対象は、地球外生命体の探査、生命の起源、火星探査・移住計画、サンプルリターン計画など】

  • 僕が生物学を学ぶ理由のひとつは、「第一の生命(=地球型生命)を理解したい」という思い。そこから発展して、生命のルールを改変した第二の生命(人工細胞/微生物の構築)は造れるのか、生命のルールに基づいて第二の生命(地球外生命)を探すことはできるのか(生命のルールやシステムを拡張することができるのか)、ということに興味がある
  • NASAが提唱した宇宙生物学は、我々はどこから来たのか(起源と進化)?我々は宇宙で唯一の生命か(分布)?我々はどこへ向かうのか(未来)?、という問いに応える学問。そのなかでも僕の一番の興味は、生命の起源にある
  • これまでの生物学で解明された地球型生命のセントラルドグマ分子生物学の基本原則)は、生命はDNA(=遺伝情報の記憶媒体)・RNA(=遺伝情報のキャリア)・タンパク質(=触媒)の3つからできているということであり、この原則は生命が誕生した38億年前から変化していない。このことは教科書に当たり前の事実として書かれているが、なぜこうなのか、というところにはまだ答えられていない

  • 生命の起源についての研究

    • 地球型生命が利用するアミノ酸(=タンパク質のもと)や糖(=DNA・RNAのもと)などの分子にはキラリティ*1という性質があって、生命が利用するアミノ酸は全てL型アミノ酸、DNAとRNAはD型リボースという糖からできている。生命は必ずDかLどちらか一方しか使わないのだが、では、D型アミノ酸しかない状況で生命はできないのか?ということに興味がある
    • また、人間を構成する20種類のアミノ酸のうち10種類は宇宙空間で生成可能だが、残りはない。つまり、代謝系の進化とともに利用するアミノ酸の種類が増えていったという仮説が立てられる。そこで僕は、10種類のアミノ酸しか使わないタンパク質(触媒)をつくって、そこから残りの10種類を作ることができるのかを研究している
    • 地球外生命の存在については、現在僕が考えている生命に必須の物質「紐状の高分子(=記録媒体となりうるもの)」を見つけることができれば、地球外生命発見の可能性も出てくると考えている
  • 生命システムの改変:合成生物学的研究

    • DNAは4種類の「塩基」からできているが、そこに人工的につくった塩基を加えて組み合わせの種類を増やすとどういうことが起こるのか、ということも研究している。そうすることで「どうして地球型生命の塩基は4種類しかないのか」という謎も解明できるかもしれない
    • また、人口的につくったアミノ酸を導入することによって、20種類のアミノ酸からは作れなかった機能を持つことができる。その結果、小川くんが探しているようながん細胞を認識する機能を持つタンパク質もつくることができるかもしれない
  • こうした研究を通じて、生命という枠組みを広げることができるのではと期待している

(会場質問)地球型生命のセントラルドグマは炭素中心だが、炭素以外(ケイ素など)のものはあるのか。また、そもそも生命はなぜ誕生したのか、ということへの根源的な答えに関する知見などはあるか

  • (藤島)炭素に比べて、単体のケイ素は他の元素と結合して結晶化しやすいという特徴がある。物質は水のような液体に溶けてイオン化することで化学反応が起こりやすくなるのだが、一度何かと反応してしまったケイ素は結晶化して水に溶けにくくなり、反応しにくくなる。なので仮にケイ素ベースの生物がいるとすれば、周囲の環境が「ケイ素が溶けやすくかつ炭素がほとんどない」ということが条件になる。そして宇宙的に見ると炭素のほうがケイ素より多いので、その環境はあまりない
  • (藤島)生命は、持っている情報に少しずつばらつきをもたせることができ、そうしてあらゆる環境で生き残って繁栄してきた。僕はそうしたものこそが生命であると思っているが、「生命はなぜ誕生したのか」という問への根源的な答えは、まだもっていない
  • (荒川)生命はそもそも生き残るためのシステムなので、一回できちゃったら残る。そこに意図があるというよりは、できたから残っているのだと思う
  • (荒川)いまいる生命は地球外に生命を飛ばそうとする知性(?)を持っているが、それも生命が生き残ろうとする自然な流れなのかもしれない。個人的には、侵略反対
  • (小川)僕は、宇宙に飛び出ていくというのはある意味しかたなくて、侵略しちゃっていいんじゃないかなと思う笑
  • (藤島)実は火星の生命探査と有人探査は、真逆のことをやろうとしている。生命探査では地球上生命によるコンタミ(試料汚染)を防ぎたいんだけど、有人探査(テラフォーミングとか)も必要だし、、という。そういう意味で、宇宙生物学はジレンマを抱えていると言える
  • (藤島)宇宙史的にみれば、地球より先に火星のほうが生命ができやすい環境になっていて、地球より火星のほうが小さく冷えるのが早かったので、海(大量の液体の水)もあった。なので、いま地球にいる生命が実は火星から飛来してきた生命であるという説が現実味をもって再議論されていて、SFだトンデモだと言われてきたことがもうSFとはいえなくなってきている

(会場質問)新しい生命をつくろうとした時に、その生命の目的までデザインすることはできるのか

  • (荒川)地球上で生命は何回生まれたか、という話があって、一回だけだという説もあれば、何回も生まれてそのなかで今の生命が生き残ったという説、ゼロ回(地球上では生まれず火星で生まれた生命が飛来した)という説もある。
  • (荒川)僕は、結局は新しくつくった生命も、自分たちの生息環境を広げようとするようになると思っている。なので、新しい生命には異なる物理環境を用意してあげなきゃいけないと思っていて、我々の環境を侵略しない、それこそデジタル空間のなかとかで生命を作れないかと考えている
  • (小川)元来、生命は目的を持っていなかったと思う。だが現在いる生命は、個体を増やして領地を広げようという目的をもつようになって、リソースを奪い合うようになっている。もし、新しい生命にうまくリソースを供給できるような状況をつくることができれば、いまいる生命と衝突せず共存できるようになるのかもしれない。ただ残念ながらいまの地球上の生命は、うまれた時点で「増やせよ侵略せよ」という目的がビルトインされているので、新しい生命をつくっても共存はむずかしいと思う
  • (藤島)いまいる生命の必要とするリソースを、欲しない生命をつくることはできるかもしれない。たとえば、我々とは違うD型アミノ酸とL型リボースで構成されている「鏡合わせの生命」とか。ただ、D型アミノ酸をL型に変化させて取り込んでしまうような生命もすでにいるので、新型生命をつくったら我々が大事に育ててあげないと発展させるのはやっぱり難しいかもしれない
  • (荒川)それって、土地(=有限なリソース)っていう概念を無視してるよね
  • (藤島)たしかに、今の地球上ではむずかしいですね。なのでこの話は、あくまで試験管内での話です

最後に言い残したこと

  • (荒川)僕は本来的には基礎生物学的なことにしか興味が無いんだけど、世界を救うこともやらなければならないと思っているので、クモの糸とかミドリムシとかも作っています。もし興味があればお声掛け下さい。
  • (小川)PDB(Protein Data Bank)というものをぜひググって見てみてください。生命がロボットなんだということがわかると思います笑。僕ははやくロボットになりたいし、人類を滅ぼさないよう新しいロボットを作っていきたいと思います
  • (藤島)僕もはやくロボットになりたいです笑。ロボットになって壮大な生命誕生実験とかをやってみたいけど、今できるのは隣の星に生命を探しに行くくらいですね。僕は、僕ら人類が知ってる生物が1種類しかないというのが問題だと思っているので、はやく新しい生命を見つけて、比較できるようにしたいです。

*1:物質とその鏡像がをぴったり重ね合わせることができない性質。左手と右手みたいなもの